吉行淳一郎さんのトラベルレビュー

いくつもの温泉宿が集まった温泉集落とも言うべき鎌先温泉の中でも、その木造の落ち着いたたたずまいが目を引くのが最上屋旅館だ。建物の外観は、カメラを持っている人なら誰でも撮影したい衝動から逃れることはできないだろう。内部は、その外観とは異なって、それなりに新しくすべきところは新しくしている。食事も、贅沢な食事を求めるのでなければ十分だ。お湯はややぬるめだが、長く、ゆっくり入るにはむしろ良い。ただ、できるならば湯船がもう少し広いか、別の風呂があるとありがたい。ぬるめのお湯なので、どうしてもみんな長く入る傾向にあり、どうもお風呂が狭く感じられてならなかった。評価点で４が多いのは評者である私が辛口だからで、あまり気にしないでもらいたい。街の風情といい、この旅館の雰囲気といい、かなり良いと思う。

歴史のある立派な温泉宿。ゆったりとした大湯、大きな蔵の中に置かれた檜の湯船がすばらしい蔵湯、川端康成も入ったという新湯など、お湯はどれもすばらしい。部屋までは長い階段を上っていかなければならないが、それも湯上がりの運動としては悪くない。部屋も古いものの掃除が行き届いており十分である。食事の質、量も、また食事をする部屋もすばらしく、また行きたい温泉宿であることは間違いない。あえて苦言を呈すとすると、部屋のトイレが古い洋式トイレで、便座が冷たくシャワートイレになっていないことくらいか。