1周目の人生についてはオリアナの強い感情に彩られた世界を断片的にしか覗けない為、そもそも1周目の二人がどうやって結びついたのか、さっぱり想像できないままダンスパーティまで来ました。
最初はヴィンセントが陰謀の親玉かと勘繰っていました。あれだけの堅物貴族が下位クラスの一般人と真剣に恋愛するとは思えなかったので。オリアナが有する過去の記憶は、少女のうっとり妄想的ですものね。
しかしオリアナにしろヴィンセントにしろ善良だったり純粋だったり生真面目だったり、当初の想定を遥かに超えて無垢な人物だとわかってきました。二人の人格の不思議に全て答えが出たのがこの巻とも言えます。
権謀術数×縦横無尽の貴族社会において、二人が真直ぐすぎたからこそ何かに巻き込まれることになったと考えれば腑に落ちます。
ミステリーを孕みつつ触れなば弾けんばかりの思春期の恋情を描いているというのに「こうやったら盛り上がるだろ?」的なわざとらしい展開が嘘のようにないんですよね。登場人物は笑い、愉しみながら関わり合い、時にごく自然に涙が頬を伝い、どうしようもなく膝を折って泣き崩れています。
原作も素晴らしいのでしょうが、漫画を描いてらっしゃる方の技量であったり、創作への姿勢が驚嘆に値します。プロなのだから当たり前という次元はとうの昔に飛び越えて、原作への深い愛情が感じられる作品となっています。