マリア&漣シリーズは気嚢式浮遊艇が空を飛ぶパラレルワールドのU国が舞台.第5作の本作は長編としては5年ぶりだ.現金輸送車を襲撃した犯人達は遠く離れたフェニックス市に潜入したが,隠れ家で殺人事件が起こる.一方,応援要請を受けて同市に向かったマリアと漣を待つのは,20年前のヴァンプドッグ事件と同じ手口の殺人事件だった.
襲撃犯側と捜査側を交互に描く11章を,序章と終章が挟み,多彩な間奏も挿入される.襲撃犯側を主に犯人の一人エルマーの,捜査側をマリアまたは漣の,それぞれ三人称視点で描く.
特殊設定だとしても連続殺人の同時性や病態機序が分かりづらく,論理に切れを欠く.傍点の多用も煩い.それでも,マリアと漣の掛け合い,テンポの良さ,期待通りのどんでん返しなど,十分面白かった.
時代は1984年で,第一作から1年しか経ってない.既存作の登場者が次々と出演するスター総出演の様相が,シリーズの変換点を暗示する.