著者初の時代ミステリ.年末の各種ミステリ・ランキングや直木賞受賞などの高評価に違わぬ出来映えだ.
各章の表題が示すように,籠城の冬から季節ごとに難事件が次々と発生した.いずれも籠城戦の行方を左右しかねない要因を持っていたので,敵方であるはずの官兵衛に村重が謎を解くよう求める経緯も了解できる.家老の荒木久左衛門でさえ,史実からすると相談できる相手ではないのだから.
各章は独立したミステリの態をなし,密室物や被害者探しなど多彩だが,完成度は第3章が最も高いと思う.各事件はそれなりに解決した.しかし,拾い残された伏線もあって疑念を持ちつつ読み進めたのだが,それらは最終章で見事に回収され,長編ミステリとして成立する.また,村重との緊張感たっぷりの駆け引きに隠された,官兵衛の深淵な意図が終盤に明かされるくだりにも納得できた.
以前から荒木村重を謎の多い戦国武将だと私は思っていた.なぜ信長に謀反したのか? なぜ官兵衛を殺さずに幽閉していたのか? なぜこのような最期を遂げたのか? これらの疑問に著者は解答を用意してくれていて,実は史実がこうだったのではないかとさえ思わされた.
一人称で書かれることの多い著者の先行作品群と異なり,本書は三人称で書かれた.視点は村重に限定していて,これは安楽椅子探偵物という特性上必要だったのだろう.本作で成功を収めた著者は今後,時代ミステリを書き進めていくのだろうか?