著者の壮絶な人生を辿る、見事な作品だ。波乱万丈な軌跡を、非常に軽快な筆致で綴って
いる。普通ではなかなか経験できないようなことをさらりと書いてのけるあたり、非常に余
裕を感じ著者の人となりが伝わるようだ。そのギャップが読み手を惹きつけるのだろう。
大学進学率が 50%を超える現代を生きる人々にとって、中学卒業後にすぐ就職するとい
う選択肢はほとんどないだろう。それをただ「珍しい」という言葉で終わらせることなく、
現代に通ずる考えや問題に繋げることによって、共感や納得を生んでいる。テーマの物珍し
さだけを売りにする数多くの作品にはない、読み手を巻き込むような面白さが光っている。