かつて自殺未遂を経験し臨死体験をしたことのある自分には興味ある内容でした。幸い自分自身は数日間意識不明だったものの肉体的には後遺症もなかったのですが、作者のように身体にダメージを残した人の社会復帰は本当にタイトル通り辛いものなのでしょう。「自殺のコスト」という書籍を髣髴とさせる内容でした。
自殺…といえど現代は誰かに自分の存在を認めて欲しいがゆえの狂言自殺が少なくないようですが、狂言でもその代償は大きなものです。狂言でなく本気で死のうとした場合でも自殺が必ず成功するとは限りません。動機がどうあれ一度でも自分の死を企んだ場合その後の社会復帰・精神的復帰・肉体的復帰はあの世のように辛く苦しいのだということをこの作品では訴えています。…それでも、作者には暖かく見守ってくれる家族(と、クジラ?)がいました。人は一人では生きていくのは難しいが、家族や愛するものに見守られていれば大丈夫・前向きな努力はゆっくりでも確実に傷を癒やしてくれるのでしょう。クジラは作者の、人間の無意識的な生への本能が見せてくれた自分自身で創りだした癒やしの幻覚(自然治癒力の一種?)なのかな。幻覚や幻聴に表される人間の深層心理の深さ・複雑さ…医療に関わる人にも興味深い内容だと思います。
自殺を一度でも考えたことのある人には「自殺のコスト」に次いで一度読んでみて欲しい内容ですが…家族のいない人、人間関係の希薄な環境で思い悩んでいる人にはかえって毒になるかもしれません。それでもやはり肉体や感覚知覚の機能不全より「普通に生きていられること」が幸せなことには間違いはないと思いますが。