「半沢直樹」そのものの痛快なストーリー展開。マンネリというなかれ、古今東西、勧善懲悪、臥薪嘗胆は感動ドラマの王道なのです。
”半沢直樹”の焼き直しとも言うべき作品で、銀行の闇部を主人公が痛快に暴く話です。半沢直樹シリーズ「オレたちバブル入行組」(2004年12月)、「オレたち花のバブル組」(2008年6月)の間に書かれた作品だそうですので、金融小説(?)作家として売り出そうと画策していた頃のものかもしれません。というわけでパターンとして半沢直樹の焼き直しといわれて仕方がないのですが、池井戸潤らしいテンポのよい文章で、あっという間に読んでしまいました。
エリート街道まっしぐら、銀行の次長まで上り詰め将来も嘱望されている主人公・黒田は五百億円もの巨額融資が焦げ付きの責任を押し付けられ左遷されます。しかし、これは上司と取引先の役員の不正取引を隠すために、自分を罠にはめたものでした。これを知った黒田の身内の不正を暴く復讐劇がはじまります。黒田が陰謀の核心に近づくにつれ、銀行役員、取引先役員を追い込んでいきます。裏金融もからみ物語はヒートアップ、とうとう殺人事件にまで発展していきます。私的な活動で悪人を追い詰めていく黒田の活躍はまさに「仕置人」ではありますが、この時代が買った題名はちょっとイタいですね。
池井戸さんの上手いのは銀行内部、経済の理屈に暗い読者に対しても専門的な金融の仕組みを判りやすく説明している点です。銀行内の慣習や株式、、中小企業の資金調達の苦悩、土地売買の手続きが分からなければ背任や経済犯罪の成り立ちが分かりません。この意味で経済入門書の側面も見せています。
ともあれ地味になりがちな経済小説にスパイ小説並のエンターテーメントを持ち込んだ好著となっています。