濃口の素晴らしさは確認済みですが、薄口で育ってますんで濃口、それもストロングな風味の井上さんの濃口常用は無理。 薄口があると知って迷わず購入。 他の蔵造り天然醸造のお醤油同様、開封時にフッと香るカビ（酵母）臭、これがかなり強い。 懐かしい、蔵の香り！！ 濃口ではここまではっきりしませんでしたね。熟成が進んでお醤油自体の熟れた香りが強くなる濃口より醗酵が浅い薄口の方が分かりやすいんでしょうか。 祖父母が蔵で自家製造していた味噌や醤油の風味を知っている人間なので、比べるとカビの香りはほんのわずかなレベルです。 が、現代の市販のお醤油の中ではトップクラス。ひるがえって、お醤油らしい熟成された旨味・香りは弱く感じます。 その点でお醤油的にはいまいちと評する人もあるかもしれません。 塩気は薄口にすればやや弱いでしょうか。しかし塩気に角が無い（天然醸造でも塩気が尖った薄口は多くある）。 随一の特徴は「麹由来の甘さ」「その酒っぽい香り」。甘さが際立ったお醤油です。 調理するとあっさり酵母臭は飛ぶので、「甘みが主張する旨み。香りは弱い」という仕上がり。 使いどころですね。 料理に甘みを付加価値とは取らない味覚なので個人的にリピートは無いですが、 天然醸造でも画一化した味のお醤油ばかりの中、１つでもこんな個性のお醤油を作ってくださっていることに感謝します。 本来フランスのチーズ並みに各地方、各蔵（むこうではケーブ＝洞窟・地下醸造庫）で違う個性的なお味噌や醤油が日本中にあった中、効率・収益重視で麹菌から酵母まで画一的に大量生産された工業品に取って代わられ日本の真の醗酵食品の伝統は実質99％死滅しました。 （日本酒、酢、納豆等も同じ状況。いくら「天然醸造」と謳っても麹菌や酵母が出来合いの同じものならいろんな銘柄があっても風味に突出した差は無い） そんな絶望感や哀惜、苦渋を感じている人間も極わずかです。 今も祖父母の蔵の何とも言えないいくつものカビの匂いが混じり合った強い香り、湿った独特のひやりとした空気に包まれる感覚を思い出します。 強烈なノスタルジーと圧倒的な幸福感。空間の広がり。 そんなものを現代の大量生産の工業食料品（家畜人の餌）を口にしては感じられません。 麹は自家製だそうですが、麹菌まで自家培養かどうかは不明（蔵元に確認していません）ながら、蔵付き天然酵母の香りは本物です。

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