長野産の干しアンズは貴重である。私は群馬出身なので何度か家族で旅行にいったのだが、道の駅なのでみかけるのはトルコ産のものであったし、長野産はジャムやしラップ漬けなど加糖加工が事実上の前提となる。大の果物好きなのでこの商品を見つけた時はとても気持ちが高ぶり、早速買うことにした。
日本の杏など東洋の品種は伝統的に加工用の品種、つまり酸っぱいのが多くて、甘い品種はもっぱら中央アジアのほうからで、生食用であることはずっとまえから知っていた。おそらく酸が多いほうが梅雨入りの多少の雨にも腐りにくくて、そういった品種が選ばれたのかもしれない(ちなみにトルコ産のは甘くてほとんど酸みがないが、アメリカ産のは結構酸っぱい)。実際にそのように商品のページにも説明がしてあったから、どれくらいのものなのか知りたくもあった。以下、描写。
外観:漂白剤や酸化防止剤を使っていないので、茶色みが濃いオレンジで、一つの実を端はつなげたまま2分している。水分はほとんどなさそう。
食感:乾燥の度合いがトルコ産やアメリカ産にくらべてかなり高いので、肉質で硬い。噛むと唾液がたくさんでてそれで軟らかに。
味覚:水分が少ないためかアメリカ産よりさらに一回りは酸っぱく(とはいってもやはり梅ほどではない。梅は完熟して甘い香りが出ても大変酸っぱい)、目がさめるような酸さだが、砂糖などで中和されていないから、まるで梅干しを食べた時のように唾液が沢山でる。しかし、酸っぱいもの好きやそれに慣れている果物好きならおもわずつづけて食べてしまうさわやかさ(後味が良い)があり、固めの歯ごたえもいい。
果物好き・知る人に捧ぐ通の味(なので素人さんは遠慮してね)、といいたいところだが、そうではない。この商品のもっと親しみやすい特性は、製菓材料として大変優れていることである。なぜなら、これだけ乾燥して酸っぱいと、たとえば少量でも混ぜてケーキにいれても、決して個性を失わずに、レーズンやプルーンなど甘みや軟らかさがドミナントな食材と大変に相性が良いことは、甘党でなくともすぐに気付くであろう。甘いグラノーラのなかの、あの酸っぱいフリーズドライイチゴみたいなものである。別に料理と気張らなくても、シリアルに1/2片をハサミで切り刻んでいれても歯ごたえと酸みが効いて良さそう。このような本気の食材を扱う店主の心意気にに思わず嬉しくなり長々と書いてしまった。