もう随分昔の事ですが、モロッコに少し滞在したことがあります。お世話になったご家庭で用意して下さっていた履物がバブーシュでした。決してスマートとは呼べない「スリッパ代用中古品」という印象とは裏腹に、履き心地が良く、軽いその履物は、日増しに足によく馴染み…。滞在3ヶ月経過したころには、馴染んでいるというより、もう足の一部のような気がしました。妙な言い方ですが、それを「履く」とか「脱ぐ」という感覚より、皮膚の一番外側の皮を「剥いだり、つけたり」するというような感覚です。帰国の際、新調したバブーシュを3足も頂き、帰国後喜んで開封したところ、あの強烈な匂いです。相当落胆したという思い出がありました。「腐った履物?」をよこしてくれたものだという怒りに似た感情が誤解であると知らしめてくれたのは、同封されたメッセージ『3ヶ月待って履け』の指示通り、しばらく置いてからバブーシュを履いた時でした。匂いが落ち着き、かすかに残る革臭は、あのモロッコでの楽しかった思い出を呼び覚ましてくれたものです。あれから、もう何年経ったのでしょう。商品を手にした途端、この革臭は、私には懐かしい思い出です。ありがとう