昭和の大戦、東京裁判についてこれまでもかなりの書物に目を通したつもりでしたが、それらの書物は著者の立場が少しずつ偏っていました。それらを読んでいるときはそれなりに全体を納得できましたが、それは、西洋文明の立場、日本文明の立場を別々にしての納得だったのです。そして、愚生の知識、理解力では双方の立場からの総合的な検証はとてもできなかったので、なんとなく物足りない気分をもつのが常でした。
ところが、今回本書を読んで、大東亜戦争、東京裁判に関するもやもや感がだいぶなくなりました。比較文化史家の著者の深い思考力、博識さらには多言語の語学能力に敬服します。そして豊富な引用文献が大変魅力です。最近、引用文献が多い書籍が目につくようになりうれしく思っていたところでした。
半世紀以上の昔になりますが、大学教師の能力不足による十年一日の講義内容には、工学系の愚生に我慢ならないものでした。大学院では教官の指導は殆どなく、半年間は一日中図書室に籠もって外国文献を読み漁り最新の課題の探索をしていたことを思い出します。
工学関係に著者のような教官に出会っていたら、と思うと悔しくさえ思ってしまいます。
すばらしい本を発行していただき感謝しております(令和4年5月14日)。