今から十五年前のこと、三十代の父親から、お米をどうしているか尋ねられたことがあった。お米ならお宅と同じようにスーパーで買っていますが・・・。
彼はオムツがとれそうな幼児と専業主婦の奥さんの三人暮らしだったが、奥さんの「お米を買うのは苦痛だ」という訴えが贅沢に感じられて理解できないとこぼすのだ。専業主婦だったあなたも子育て中にお米を買うのが苦痛でしたか。
私は全然苦痛じゃなかった。周囲の奥さんたちも同じだった記憶しかないが、あなたの奥さんの不満は贅沢だよと安易に同調したくないので、さらに十五年前の自分の子育て時期に思いをめぐらすと、当時(三十年前)は今(十五年前)と違って小売店が健在で私たちの年代の主婦はその恩恵をこうむっていたことに初めて気づいた。お米がほしいときは近くのお米屋さんに電話すればすぐに届けてもらえたし、子どもを散歩させながら「後で届けて」とお米屋さんに声をかけるのは日常だった。大型スーパーが町に進出してきたのは後のこと。
あなたの奥さんのように子どもを連れてスーパーから十キロのお米を運ぶ苦労を私はしていなかったと、あわてて奥さんを擁護すると彼は目を輝かせて、
「これからは僕が、休みの日にお米を買う役を引き受ける」
と宣言した。
今はネットで注文しておけばお米が家に届くんですね。