「投資で莫大な富を築いたボス」が「社会も愛も知らない子ども」にお金と愛について語る経済小説。
指南役のボスを、敢えて胡散臭い人物に設定した理由が解らない。
節度の無いギャンブル好きで、賭博にハマって入ったばかりの大学を辞め、職を転々としたボス。
ボスの初期の仕事は詐欺まがい。「ここでは書けないような」手口で騙し取った種銭と人脈で会社を興し、投資を始めたと書かれていた。被害者たちは何の補償も無く泣き寝入り。
我欲の為に世間に迷惑をかけ、人の道を踏み外した人間。自らが労働するよりも金が金を生むシステムを構築することを目論み成功した。不労所得で豪邸に住み他人には社会の為に働けと説く。
過去の不正を武勇伝扱いして、人に上から説教。若者への資金援助をするのは、豚を盗んで骨を施す行為。美談ではない。
お金のために家族を顧みず、庭を崩壊させた人。「家族を愛していた。彼女たちの幸せを考えた」と言いつつ余命宣告を受けるまでの長い年月、生き別れた娘の消息も追わず放置していた。父親の顔を知らずに育った娘が、社会人になるまでの間にどんな扱いを受けたか想像できないのか。ビリヤードを楽しむゆとりがあっても父として娘の成長を案じる心はなかったのか。
子どもは親を選べない。常に自分の側の気持ちと都合優先で、晩年に至って初めて面会を求めた。病気の母親を介護して、一人残された娘がトラウマを抱えたことすら知らなかった。
再会の場で札束を積み上げて見せる無神経さ。家事も育児も立派な仕事だと言いながら、賃金や社会的評価の発生しない労働には時間を割かず、人に丸投げ。辛酸を舐めた娘に、もっと他にかけるべき言葉があるのでは?
「人々の格差を縮めるサービスを提供した人間が、結果的にお金持ちになる。金は生産の対価」
是非そうであってほしいものです。(ボスは有能な実業家の設定だが、そもそも何を生産する会社なのか。錬金術の中身は曖昧な精神論。大学生の時点でギャンブルは胴元しか儲からないことも知らなかった人間が、投資で勝てるまでに成長した経緯の説明がない。ボス本人の人格が身勝手すぎて、彼の教えの内容が心に入ってこない)
大富豪でなくても、名のある実業家でなくても。
普通に学校を出てまっとうな社会人になり、詐欺まがいの不正などと最初から無縁な世界で平凡な家庭を支え、地道に生きる沢山の誠実なお父さんたちに心からの感謝と敬意を。