「前史」というような展開は長いのだが、とりあえず“戦争”ということになったのが2022年2月であるから、既に1年4ヶ月間も続き、直ぐに1年半になってしまう。こうなると「何故終わらない?」という表現が口を突くというものだ。
本書は複数の執筆者による論考を纏めているのだが、論考を綴ると同時に纏める作業を担当した編者は、テレビ番組等でコメントを求められ、「何故終わらない?」または「落としどころ?」というように尋ねられる場面が在り、そんな中で考えを色々と整理することを重ね、本書という形に纏まったということであるようだ。
たった一言で“結論”を敢えて言えば、目下のウクライナとロシアとの戦争は「簡単に終わるようには見えない」ということに他ならないかもしれない。それは「何故?」ということを本書では説いている。
ハッキリ言えば、ウクライナとロシアとは、経済規模や開戦当初の軍隊の規模等が「10倍以上の差」であった。そういう情況にも拘らず、ウクライナが善戦して持ち堪え、戦闘が膠着する場面も生じて、長期化している。その辺りの技術的なことも判り易く纏めているのが本書だ。
一言で言えば、“成功体験”から「詰めが甘い?」という感で開戦に踏み切ったロシアに対し、苦心しながら備え、必死に抵抗し、効果的な反撃で持ち堪えるウクライナという図式になるであろうか。「国の一部に組み込んでしまえ」と攻めるロシアに対し、「それは断る」と守るウクライナで、両者の“自己同一性”を賭しているような情況になっていて、目下の戦いの“終わり”は見え悪い。
「戦争」というような様相は、“外交”、“情報”、“軍事”、“経済”という諸要素が複雑に絡み合っている。そんな様相を、新しい意味で「総力戦」とでも呼ばなければならない筈で、目下のウクライナの戦争もそういう例に入らざるを得ないとしている。
この戦争の件に関しては、「考える材料」を怠りなく集めるべきだと思う。そういうことで、この種の本は積極的に読まなければならないと思う。本書の好さは、地域事情等でもない「外交や軍事や技術の全般」という視座でウクライナで起こっていることを説こうとしている点で、それ故に「非常に判り易い」という辺りだ。広く御薦めしたい。