本書は「“ロシア”とは?」ということを問い、考える材料を多々提供しているとも思う。
題に「KGBからFSBまで」と在る。これは所謂「諜報機関」、「防諜機関」のことである。ロシア革命による新しい体制が成立して行く中で「諜報機関」、「防諜機関」が形成された。やがてそれが「KGB」となって、知られるようになって行く。1990年代に入ってロシアの体制が変わった後も、「KGB」が再編されて行く。そして再編された機構の中で代表的なモノが「FSB」だ。
「諜報機関」と言えば、情報を収集し、そのために様々な工作を展開する場合も在るというモノだ。「防諜機関」と言えば、不利な情報が漏れることを防ぐ活動を展開するというモノだ。何れも重要ではあるが、何処か秘密めいていて、余り表に出て来ないような印象は在る。が、ロシアに在ってはそういう印象の範囲に留まらない存在かもしれない。内政や外交の直ぐ背後に、その種の機関による活動が密着していて、直接的に当該機関の職員というような判り易い形で仕事をしている「以外」の「関係者?」が実に多種多様であるのだという。
国を統治する、または国際関係の中で存在感を示して影響力を行使するというような中で「情報」が重要な位置を占める。ロシアはソ連時代からそうしたことに非常に重きを置いていたという一面が在る。本書ではそうしたことが、様々な角度で論じられている。そういう分野に関して、ソ連時代から比較的近年となる1990年代から2010年代迄の事柄を広く取り上げ、最近のウクライナでの事態を巡る動きに至る迄の言及が在る。
自身は、実はソ連の歴史を学んだ経過も在り、1990年代からロシアを訪ねる機会や、滞在した経過も在るので、様々な見聞が在ると思うが、そういう事柄に関連する内容が豊富な本書を実に興味深く拝読した。「それでも」と、ロシアと日本とは、互いに「引越出来るでもない隣人」であるというように思う。が、「こういう面も在る」と、本書で論じられているようなことを注視する必要は在るであろう。
「諜報機関」に注目した「分野別歴史」という感の本書は、在りそうで無かったかもしれない内容を色々と盛り込んでいる。貴重な一冊で御薦めである。