紐解き始めて、頁を繰る手が停められなくなってしまった。そして素早く読了であった。
山中の洞窟に、戦いに敗れて少し弱っているという風な男が在るという場面から物語は起る。戦いに敗れた、間もなく最期を遂げようという状況下の男は「武士(もののふ)の物語を聴くがよい」という、頭の中に響く不思議な声を聞くこととなる。本作の主要部分は、その「武士(もののふ)の物語」ということになる。
男が聞かされる物語とは、“もののふ”が繰り返して来た戦いの経過だった。世の中には、決して相容れることが無い2つの一族が在るのだという。「海の一族」、「山の一族」と呼ばれる。各々の一族の流れを汲む者達が在って、両者が争ったというのが、色々と伝えられている戦いの歴史なのだという。
平将門の戦いから源平合戦、鎌倉幕府の成立、室町幕府が起こって行く時代、更に南北朝の争いの収拾が図られる時期、戦国時代から江戸幕府が成立する時期、そして幕府支配が揺らぐ時期に入り、幕末の争乱になる。
史上のよく知られた人物達が登場する篇が折り重ねられている本作である。彼らが、人智を超えた何かに導かれるように、相容れない者との争いを繰り返す。それは「役目」とも呼ばれる。そして洞窟に在る男の時代ということになる。
本書では、単行本の後に発表された戦国時代関係の篇が末尾に追加されている。それによって『もののふの国』の物語は少し厚みを増すが、或いは「マダマダ在る『もののふの国』の物語?」というような感にもなっている。
決して相容れることが無い2つの一族の流れを汲む者達が、人智を超えた何かに導かれるように、「役目」を果たすというのが、繰り返されて来た「戦い」の歴史なのであろうか。或いはそれは「更に続く」または「続いている」のであろうか。
或る種の壮大なファンタジーなのだが、何か考えさせられる内容の作品であると思う。興味深い。