ウクライナ取材中の夜のニュースのスタッフに「漫画家になりたいので日本に行きたい」と言っていた女の子がいたことを覚えている方も多いと思う。その後続報があり、横浜の日本語学校に通いながら絵の勉強をしているとの事だった。16歳でロシア語とウクライナ語と日本語が話せて独学で太宰治の小説も読んでいたらしい。その時は天才少女かと思った。本書を読んでイメージがずいぶん変わった。ロシアの爆弾よりも人混みが苦手。かつてはほとんど引きこもりであったらしい。そんな16歳の等身大の少女の今の思いがおもいっきり詰まっていた。ドニプロから日本への逃避行がこれほど波乱万丈だったとは!
戦争というと悲惨だが著者はいつも前向きで決して希望を失わないので重苦しくなっていない。「日本を見るまでは死んでたまるか!」という筆者の決意は素晴らしいけれど、はて?わたしたちの国はひとりの少女が命がけで憧れるほど素晴らしい国だろうか?そういう国を作って来たか?自問せずにはいられなかった。
逃避行も大変だったけれど、日本での筆者の生活もまるで全力疾走をしているようで、大丈夫だろうかと不安になる。絵の勉強だけではなくギターが好きでバンド活動も始めたらしい。とにかく時間を無駄にしない。多くの人に助けられて今の自分があることを身に染みて感じているのだ。後半に出て来る親友の中国人青年は完璧な「造り」だそうだが、実際そうなのか筆者の乙女ごころがそう見せているのかはわからないがとにかく「青春」しているなあ!と思う。筆者の将来に幸多からん事をねがわずにはいられない。
そしていつかは漫画でもなんでもよいから世界に羽ばたくアーティストになることを期待したい。