「“今”こそ読むべき!」という、時宜に適った一冊というのは在る。その種の一冊は、時には「何年か経ると然程…」ということになる場合も在ろう。しかし、本書は断じてそういうことにはならないであろう。登場したばかりの本書だが、これから一定以上の時日を経たとしても、或る種の“史料”というような価値を発揮するかもしれないと思いながら読み進めた。
著者はこの<マイダン革命>を巡る動きに関連して、ウクライナ現地を何度も訪ねて「言葉」を拾い集めている。以前からの友人や知人、訪ねた先で言葉を交わした人達、学識者や詩人のような文化人から市井の若者に至るまで、直接に聴いた言葉や著者が受け取った書簡やメッセージの内容を丹念に拾い集め、そしてそれらに基づきながら綴っている。
全体の内容は2部構成となっている。第1部は当時の大統領が追われてしまった「革命」だ。加えて、それが段落した後の何か不穏な空気感のようなモノに関する言及が在る。第2部は、東部ウクライナでの「戦争」というような状況の発生と人々の様子である。
「言葉」を拾い集めるということを基礎にしているので、推移する事態や吐露される人々の想い、考え方というような事柄が「臨場感」を持って迫って来る。仮令、それが著者の受け取ったメッセージに依拠する「伝聞と推定し得る」内容であっても「臨場感」が凄い。例えば…第2部に何やら酷い暴力に晒されてしまう人の話しが在るのだが、久々に「本気で怖い…」と思いながら読んだ。
本書には用語等の解説や註が巻末に在る他、随所に引いている詩や台詞等の出店が参照出来る情報等も適宜在って好い。
なかなかに好い本に出くわした。広く御薦めしたい。