本書は1940年代に在ったという、<総力戦研究所>というモノの顛末が語られている。
敗れた戦争で、最も大きな損失は何だったのか?恐らくは有為な人材が非常に多く戦禍で損なわれたことなのであろうと想像する。本作に登場する<総力戦研究所>という場で活動した人達は、「日米開戦」という想定を与えられて緻密なシミュレーションに打ち込み、「その後数年間で日本が敗れてしまう展開」をかなり精確に纏めたのだという。往時はそういうことが出来る人達が多く在ったのであろう…
そうした“情報”が在りながらも、敢えて戦争に踏み込んでいったのは「何だった?」のかというのが本書のテーマだ。それを暗示するキーワードたる『昭和16年夏の敗戦』という題名が与えられたのだ。
“結論”を求めて色々と検討するということでもなく、「在りき」な“結論”に「合わせる」かのように論を組み立てようとし、検討をしようという人達にもその組み立てを半ば強いる。或いは古くからそういう心情、制度、その他色々が在ったのかもしれない。本作はそういう問題提起がなされている。
1980年代に、1940年代の様相を往時の関係者による証言を集めながら綴った本書であるが、2020年代の現在、本書の提起する問題は少しも色褪せていないかもしれない…