「忍びの者」の監督が左翼系の山本薩夫というと奇異な感じを受けるが、元々村山知義の原作小説が赤旗に連載された物であり、その縁から山本薩夫が指名されたものであろう。続編まで山本薩夫が監督している。また山本薩夫は「座頭市」シリーズも1本監督しており、社会派の硬派な一面と娯楽映画の職人としての一面を併せ持つ才人監督だった訳である。
開巻の出演者クレジットで、市川雷蔵と藤村志保が併記されて出てくる。これには驚いた。主演は市川雷蔵であり、既に大映というよりは日本映画界の大スターであった。片や藤村志保は当時はまだ新人の部類であり、この映画での出番もわずかである。如何に当時藤村を売り出そうと思っていたかが分かるが、良く市川雷蔵が怒らなかったものである。それだけ良い人だったのかなぁ。田宮二郎だったらこうはならなかっただろうな。その他役者陣は、岸田今日子(晩年とは比べ物にならない、この当時は妖艶な美しさである)、城健三郎(若山富三郎)、二役で文字通り怪優振りを発揮する伊藤雄之助、黄門様ではない西村晃、何時もと違って精悍な加藤嘉など、この時代の映画は脇役陣が充実している。
今では良く知られている、百地三太夫と藤林長門が同一人物ではなかったかという説もこの映画(小説)が始まりか。