『趣味レベルで日本史が好きなおじさんが自費出版した本』という印象。
通史とは本来、各時代の専門家が各章ごとに執筆するものだ。
それを学者でもない人間が古代から現代まで(しかもかなり短期間で)欲張って書いてしまったものだから、終始一貫して記述が薄っぺらい。
参考文献すらほとんど提示されておらず、「こういう学説もあるが私はそうは思わない」など、たいした根拠もなく述べられたところでただの感想文でしかない。
学者の書くエッセイが面白いのは、執筆分野における深い知識と経験に裏打ちされた思想・思考だからである。
本書の場合、ちょっと歴史に詳しい人ならば知っていることばかりだし、自分の興味がある時代(私の場合は幕末~明治・大正あたり)の記述には首を傾げる部分も多いだろう。
読んでいて「これ本当?」と思ったところは少し調べれば記述の不正確さや調査不足が気になってしまう。
故・早乙女貢氏などもあからさまに「薩長大キライ」な記述が散見されたが、それと同じく『作家が書いた僕好みの歴史観』であり、教養ではなくネタ程度に楽しむものだろう。
楽しんで読む、共感する分には構わないと思うが「正しい歴史を知った」などと思うのは危険である(そもそも「正しい歴史」という認識自体が浅慮と言える)
以上を踏まえると、『日本国紀』というタイトルや「日本通史の決定版」という帯の宣伝文句は完全に失敗だったと言わざるを得ない。
「韻文でもないのに叙事詩?」というツッコミも一応入れておく。
最後に少しだけ褒めておくと文章自体は読みやすい。
また、「これ本当?」と逐一調べながら読むので逆に勉強になるという利点はある。