山田詠美さんのエッセイ集といえば熱血ポンちゃん。自由でカッコいい生き方は、常に若い女性を鼓舞するカリスマだだった。そして久々のエッセイ集となった本書はといえば、これまでとちょっと違う。
現在59歳。お酒を飲むのは六本木など華やかな場所ではなく、どちらかといえば近所の居酒屋。ドンペリも飲むけど、たいていはホッピー!一緒にいるのも、編集者というより旦那さんが多い。
そんな歳を重ねたからこそ分かったであろう、日々の愉しみ方の変化が随所に見られ、とても親近感を覚えるとともに、やっぱりカリスマとして憧れの的だと思った。
愉しみはなんでもない日常にあり、それを味わうのにお金は要らない。煌びやかな服も宝石も車も必要ない。人生を愉しみ尽くすために必要なことがあるとすれば、世間の常識や人の目を気にせず、自分が心から愉しいと思えることに邁進できる力。そんなことがエッセイの行間からビンビン伝わってくる。
誰に何を言われようが関係ない。捨て鉢ではなく、そう思える人は少ないだろう。しかし、この本を読めば、そこかしこに真似できるヒントが書かれていることに気づくはずだ。
こんな風に生きたいと思わせる、身辺雑記のようで心の深いところにまで届く随筆集の佇まいがあった。