作者は、『万能鑑定士Q』シリーズでお馴染みの松岡圭祐さん。
物語は、シャーロック・ホームズとジェームズ・モリアーティ教授がライヘンバッハ滝上で戦う「最後の事件」ではじまり、伊藤博文や井上馨、ニコライ2世といった歴史上の人物を巻き込んでいく。史実のイベントが続くが、途中から違和感なくフィクションに入っていく絶妙のブレンド感は、日本のシャーロキアンとヒストリアンにお薦め。そして、法治主義とは何かという、現代の我々も悩み続けている大きなテーマを突きつけてくる。文庫本で500ページ近い大作だが、スピーディな展開に、1日で読み終わってしまった。
井上馨の勧めでイギリスへ密航した伊藤博文らは、1864年、ロンドンで暴漢に襲われていたホームズ兄弟を助ける。柔術で暴漢を退けた伊藤博文に、まだ10歳だったシャーロックは感銘を受ける。
時は過ぎ、ライヘンバッハ滝の死闘の後、死んだことになっていたホームズは、チベットへの密航を試みる。そこへマイクロフトが現れ、日本行きをすすめる。
日本で何とか伊藤博文と出会ったホームズは、伊藤の顧問という立場で宮中を訪れる。そこで、大津事件のことを知らされる。事件を日本の裁きに任せたロシア側だったが、手のひらを返したように日本に圧力を加えてきた。ホームズは、伊藤と共にこの謎に挑む。
伊藤はホームズを伴い、かつて共にロンドンへ密航した井上馨を訪ねる。2人は、ニコライを救ったとされる車夫を訪ね、その話をホームズに伝える。
ホームズは事件の謎を解き明かし、その確証を得るため、お忍びでロシア公使館に滞在しているニコライ皇太子に会う。
だが、すべての謎が解けたわけではなかった。釧路に収監されていた津田が急死したのである。ホームズは、津田の死の原因を探るべく、釧路へ向かう。
津田はロシアに革命を起こそうとしている第二インターナショナルに暗殺されたのではないかという情報がもたらされ、東京では警察が総力を挙げて犯人捜しに打って出る。
事態は急転直下、日本はぎりぎりのところでロシアとの戦争を回避した。
日本のような小国は清に打ち負かされると断言するニコライに向かい、ホームズは「日本と清が戦争した場合、日本が勝つでしょう。のみならず、あなたが皇帝になったロシアをも打ち破る」と喝破する。
ホームズにかけられた嫌疑も晴れ、物語は「空き家の冒険」のイントロで締めくくられる。