昭和20年8月、日本は未曽有の時を迎えていた。広島と長崎への原爆投下、ソ連(が日ソ中立条約を破棄し突然)の参戦、そして、(「日本のいちばん長い日」を経ての)敗戦である。戦後は戦前の反動から、反軍、反戦の映画が結構作られた。この映画もそんな一本に数えられるだろう。野間宏の原作を、山本薩夫が監督、昭和27年「キネマ旬報」ベスト・テン第6位である。現在は、独立プロによるこういう硬派な映画は全然作られなくなってしまったが、昭和の時代は、この山本薩夫を始め、今井正、新藤兼人、熊井啓、亀井文雄等が大手映画会社とは異なる独自路線で製作・配給を行っており、深作欣二も独立プロで反軍映画の傑作「軍機はためく下に」を撮っている。
大手映画会社の作品ではない故、所謂スターと呼ばれる人は出ておらず、当時の新劇を中心とした演劇人たちがキャスティングされているのだが、これが今見ると、後に映画・テレビドラマで活躍する凄い豪華キャストと言えなくもないのである。木村功(もまだ「七人の侍」以前である)、西村晃に佐野浅夫(両者言わずと知れた水戸黄門)、岡田英次(「二十四時間の情事」、「砂の女」)、金子信雄(「仁義なき戦い」の若き姿)、加藤嘉(「砂の器」)、下條正巳(「男はつらいよ」のおいちゃん)、その他渋いところで、神田隆、花沢徳衛、三島雅夫、下元勉、高原駿雄、薄田研二等々、昭和の映画、ドラマではお馴染みの顔ぶれがそろっており、今の若い俳優とは全然、芝居の質が違うことが一目瞭然である。
また、解説リーフレットも山本薩夫監督と武田敦監督のインタビュー、原作者野間宏と劇作家木下順二のエッセーが載っていて、これも貴重なものであると思う。