楽天の商品ページに具体的な説明がほとんどないので先にそれを書くと、本書は2005年に「失踪日記」で各界の注目を集めた「吾妻ひでお」が '70年代中盤から '80年代中盤にかけて発表した諸作品のごく一部をまとめた「マンガの単行本」で、収録内容は次のとおり。
・連載「やけくそ天使」から5編
・連載「スクラップ学園」から5編
・連載「どろろん忍者」から11編
・連載「どーでもいんなーすぺーす」から2編
・読切「Dr.アジマフ ロボット連れて」
・読切「不気味が走る」
・連載「ちびママちゃん」から1編
監修というか掲載作の選出をした山本直樹によると、「現状では吾妻作品の大半が版権切れの絶版となっているため、前述の『失踪・・・』以降の新規読者にそれらの一部でも提供するのが目的。」ということらしい。
で、標題にもしたとおり、編集方針がそれなら選出の仕方に難があると思う。この頃の吾妻作品の代表格といえば「不条理日記」に尽きるのは論を待たない。これをはずした理由等については山本の後書きに書かれているが、個人的には外すべきではないと思うし、また、吾妻の膨大な作品群から200ページ程度を選ぶのなら1作1編程度として可能な限り別々の作品を収録した方が良い。編集方針が前述のとおりならなおのことと言える。
そもそも、本書の編者として山本が適任なのかは疑問がある。後書きを読む限りでは山本は吾妻についてあまり詳しくはないようだ。この作品群の頃の吾妻読者なら当然知っていること、例えば「忍者とトラウマは生き別れの兄弟」「人間の不気味とロボットのRブキミはキャラクターとしては別個の存在」といったことを承知していないらしい。無論、マニアックな知識がなければ編集してはいけないなどということはないが、「知らない者」の仕事より「知っている者」の仕事の方が良いものができることに疑いはない。
それともうひとつ。山本は後書きの情報源としてウィキペディアを使っているとのこと。しかし、個人的な経験則で言うとウィキ情報は誤情報や執筆者の主観情報も多く、情報源としてはあまり当てにならない。山本はプロの漫画家。そのプロが商業ベースに乗せる商品として編集するのだから、情報収集くらいはしっかりやるのは当然のことである。
出版元が河出書房新社なので次があるとは思えないが、続巻するなら編集者は変えて欲しい。個人的には「とり・みき」が最適任と思う。