誰もが思い描く理想の社会(ソサエティ)。結婚も職業も生きることも死ぬことさえも、全てが定められ迷いのない生活が守られている。
度々自由の意味に翻弄されて現代を生きる我々にとっては、まさに夢のような世界である。カッシアの舞台は『苦しみの克服』という人類の最終目標を達成したかのような社会だった。
しかし、読み進めていくと私の脳内に警告音が鳴り始めた。それは次第に大きくなっていき、何かがおかしい!何かが違う!と、完璧な社会に反骨心を抱くことになった。
ページをめくる度に襲ってくるこの違和感は、まるで暗い森の中をひとりで彷徨っているかのようだ。
『安心』を盾にした得体のしれない恐怖とスリル。それでいてラブストーリーという身近なコミュニケーションを素材とし、少女カッシアと青年二人の恋は進んでいく。
迷いを断ち切り、悩みから解放されること。それこそ幸せの条件だと思い込んでいた私に、この本は警鐘を鳴らしてくれた。
少女カッシアは完璧な社会に立ち向かっていく。迷いながら、苦しみながら、希望も抱いて。
登場人物の言動や行動に無条件に心を打たれる。それは恋の成就を祈るという登場人物に移入した感情よりも、むしろカッシアのひとつひとつの『選択』に覚える感動の方が強い。正しいのかそうでないのかは分からないが、少なくともカッシアは絶望的な恋の過程で自らの意志を持った。
あらゆる世代の悩みある方々に読んでいただきたい勇気の一冊、3部作ということで続きが私にどのようなメッセージをくれるのか、今から楽しみでならない。