恩田陸さんの作品は、好きなものもあればそうでないものもある、という程度です。
初めて読んだのが「夜のピクニック」で、ちょうど自分の学生時代にも同じような行事があったため、親近感を感じ、大好きな1冊となりました。
それ以上の作品には出会えていなかったのですが、これは久々にぐいぐい引き込まれてしまいました。
物語は、軽くミステリー調に仕上げているものの、二人の秘密も最後に明かされる種明かしも、私はさほど驚嘆しませんでした。
この物語の素晴らしいのは、二人の心の複雑な機微の表現につきます。風がそよいだだけで絶えず変化してしまう蝋燭の火のような、若い男女の気持ちの揺れ動き。よくもまぁこんなに的確に言い表せるものだと、そこに感動しました。
物語の終盤で、愛情を錯覚していたと自覚したアキが突然変貌する部分は深く共感しました。情けない男を前に、かつてあった愛情を失った女はああも変わってしまうものなんですね。