読み終えた今、智也と容子、犯罪者と警察官、医者と看護師と受付嬢、生者と死者・・・登場するみんながこの物語の続きを今もきっとどこかで生きてるんじゃないかって思います。奇想天外の怪事件、ホラー、ミステリー、サスペンス・・好奇心をそそられる物語なら、いくらでもあるし、これまでも読んできたけれど、それはどれも人間たちの謎ときであり、人間たちの仕組んだからくりでした。この小説で起こる出来事も人間なしには考えられないけれど、でもそこに焦点が当たっていない物語を読んだのは初めてです。これほど登場人物たちになりきって、そこに好き嫌いや善悪すらぶっ飛んでしまったのも初めてです。最後には涙があふれてくるのだって、愛や命のすばらしさ、そこに込められてる意味(価値観)に感動したわけじゃないです。もっと深い、その背景にある、この世界(生命)すべての謎に斬り込んでく問いに感電したんじゃないかって思います。小説の中で次元を飛び出してしまうように、この小説はもう小説を飛び出してるんじゃないかって思います。「理屈なんかもうたくさんよ」「なぜかなんてわからないのよ」って容子が叫ぶシーン、この小説全部がそうなんじゃないかって。生命の謎もこの世界の謎も私は誰かも何も知らないしわからないままなんじゃないかって、それは始まり(生)から終わり(死)までずっとです。たとえ輪廻を繰り返しても、永遠の命をえたとしてもです。 智也と容子のように、私は私を生きたいしそんな私以外にはなれないって、こんなにも爽快なんだって思います。何度読んでも未知の問いにあふれていて、何度読んでも勇気づけられて、何度読んでも仮説(この小説)にはこんなにも人を生き生きさせてしまう不思議な力があるのかって思います。