今更ながら湊さんのすごいところは、登場人物それぞれの立場に立って、事細かに心状を書き分けることができる想像力と筆力だと再認識しました。
例えばかつて犯人の目撃者だった少女のうちの一人、由佳が被害者の母親に向かって「わたし、正直言ってあなたのことが大嫌いだけど、誰かに話していると、自分一人では気づかなかったことが見えてくるものなのですね」と言ったあたり、読み手をタイミングよく惹き付ける術を心得ておられるなぁと感心しました。まるで自分がカウンセラーとなり、ひたすら相槌とうなづきだけで聴いているような感覚になります。
確かに「告白」のときの衝撃や感動は、作品ごとに薄れてきており、アプローチの仕方が殆ど似通っていますし、後味が悪いのも確か。過去二作と違うのは、「終章」が、名状し難いマイナスの海に置いてけぼりにされたような終り方ではないというところ。ただし、これは省略できる箇所でもあり、どちらを良しとするか意見が分かれるでしょう。
個人的には「"告白”の湊かなえ」という先入観を取っ払ってでも一読の価値があると思いますが、かく言う自分も湊さんの作品でなければ多分手にしなかったでしょう。
それでも特筆すべきは今作品のカバーデザイン。ネタバレになってしまいますが、裏表紙にふと目をやると、赤い指輪が鮮やかなベリー系の果物たちの中に紛れ込んでいます。
その指輪が何を意味するのか、読み進めていくうちに、謎が解けていきます。