著者松下氏がかつて公表した名論文「〈市民〉的人間型の現代的可能性」(1966年発表。現在は『戦後政治の歴史と思想』ちくま学芸文庫、1994年刊行、で読むことができる。序でではあるが、現在品切れ状態の同書の再刊を筑摩書房に強く希望したい)の、いわば続篇に当たる講演の記録である。「人間型」論文のようなスリリングな緊張感は薄いが、もとが講演であり、しかも松下氏にとっては手馴れたテーマであろうこともあって、実に解り易く、円熟した余裕を感じさせる出来栄えである。《市民》とは「特別の人々」ではなく私たちひとりひとりの個人であり、しかも民主政治においては「愚かな政府は愚民によってつくられ、賢い政府は賢民によってつくられる」のであって、つまり市民は政府の主権者であると同時に、政府の失敗の最終負担者でもある以上、民主政治において最終的に問われるものは、結局のところ、私たち市民の「力量」にほかならないということを、考えさせられる。