東野圭吾氏の代表作で強盗殺人犯の弟になってしまった直貴の苦悩を獄中の兄との手紙のやりとりをキーにして真向から描いた作品です。ただ3分の2くらいまではことごとく兄の存在が知れるたびに夢も希望もつぶされ続け絶望感に苛まれるというあらかた予想がつくような内容で世評ほど名作とは感じられませんでした。クライマックスの手紙を読んでググっとくるのかという勝手に期待していた感じでもありませんでしたので・・・。
新たな気付きを与えてくれたのは、クライマックスに近づいたころから登場する勤務先の電機企業の社長平野が暗示するように直貴に諭す非常に厳しい言葉でした。さりとてではどうすればよいのか明確に答えを出してくれるわけではなく、正解は平野にもわからず直貴自身が決断するしかありません。結局、妻子持ちとなり妻子を守るためにも直貴が出した結論は兄に書いた最後の手紙にもある『兄との絶縁』の通告ということでこの小説は結ばれています。エンディングは少々尻切れトンボのような感じがしました。非常に重く、暗い作品でした。心に余裕がある時に読まれたほうが良いと思います。