村上氏の文章は,読んでいて心地よい文章だ。神戸をイメージさせる描写が多く,情景が具体的に浮かぶのが気に入っている。はっきりと東京と書いてあっても,そこはたいてい神戸だ。この風の歌を聴けは,元町と芦屋と魚崎あたりが舞台なんだろう。時代も空間も今の自分にはノスタルジックすぎる。氏の小説を読んで思うのはいつも同じで,どうして大学生の頃にもっと読んでいなかったんだろう,という感想だ。きっと女の子を見る目が違っていただろうと思う。
氏は私より一回り上で,私たちが背伸びしたい時に目標とした世代だ。日本人がアメリカ人のまねをしていた時代の土臭さと虚無感がたまらなく懐かしい。おすすめの一冊です。