今日のコロナ渦の影響を受けてカミュの「ペスト」が読書界で話題になっていたので、学生時代以来数十年ぶりにカミュの作品を入手して読み返しました。
作品のレアリティーは実際にペストの感染爆発を題材にした「ペスト」を著したダニエル・デフォーの言葉が冒頭部分にあることから、過去の統計と6世紀の歴史家のプロコぺウスの記述を含めた知識の蓄積があってのことで、最後の「そしておそらくいつか、人間に不幸と教訓をもたらすために、ペストが再びその鼠どもを呼び覚ま」すことを予言していることも歴史の積み重ねの結果と思います。
奇しくも都市閉鎖や買い占めにより「通常の市場には欠乏している第一級の必需品がまるで作り話みたいな値で売られていた」ことと「貧しい家計はそこで極めて苦しい議場に落ちっていたが、一方富裕な家庭はほとんど何ひとつ不自由することがなかった」ことが現在に通じることに、人間のエゴイズムの卑しさが現在も少しも克服されていない問題に真摯に向き合う必要性を感じます。
しかしながらカミュのもっとも独創的な点は、ヒューマニズムであり人間は本来善であり、「悪は無知からもたらされ、善意も十分な知識が無ければ大きな災いをもたらす」という視点でありその例がパルヌー神父の「神の懲罰」という考えの誤りの反省にも表れています。主人公の医師リューが語る「特権者の孤独で恥ずべき楽しみ」となったクリスマスの様子と、完全無欠な「死の平等」の前にあくまでそれを望まず、「強化されるべき平等の連帯」による克服を訴えていることが、戦後の人々の共感を得て作者をノーベル文学賞に導いたと思われます。