小説を読んで、色々なテーマを考えさせる事に気がついた。その中で一番感じることは、リーダーシップとは何ぞや、という事かな。
31連隊を率いる徳島大尉と5連隊を率いる神田大尉、山田少佐。
強力で隊の秩序の為には情け容赦しない徳島大尉に随行する新聞記者は特異なものを感じる。恐らく、非常時にはこういうリーダーが必要だ、という事。方や神田大尉は責任感こそ強いが、地位が上位である山田少佐が発する命令にはすごすごと従ってしまう。そこには、平民出身というコンプレックスがあり、作者が気にかけるような遠慮深さが仇となって、悲劇を生んでしまう。
彷徨する際の強烈な描写は多分登山やら冬の気象に通じた人じゃないと、よく理解できないかもしれない。少なくとも書くことはできないだろうな。
あと、小説で結果的に勝げ者となったはずの31連隊と徳島大尉が無名のままその生涯を2年後の黒溝台で終える事で、どちらも戦争の準備か戦闘かでなくなっている訳で、ある意味で軍人の生涯ってのははかなく平等に運命に翻弄されるって事が印象的だよな。国家的、軍事的に見た場合、皮肉にもその最後が悲劇的である方が、装備の改善などで意義のある立場になっていることもまた強烈な印象ではある。
それにしても、こういった強烈な事件が戦後まで表立って公開されていなかったってのが日本の歴史の不思議である。丹念な調査で記録文学として記した新田次郎はさすがだと思う。