村山由佳さんのファンである。その彼女が中日新聞に寄せたエッセイがきっかけで、デビュー作を読んで見る気になった。被災地のサイン会で、この文庫本を差し出した青年の言葉に号泣したという逸話だ。これまた村上龍氏が、あとがきで「すばる文学賞」受賞時の、村山さんの「受賞の言葉」を紹介している。「ほんの何人かでいいから、心から共感してくれるような、無茶苦茶せつない小説が書きたい」。まさに私は、何人かの一人だったのだろうか。浪人生・歩太19歳と、精神科医・春姫28歳の恋は、確かに切なく、もらい泣きしながら一気読みした。