村上春樹氏の長編短編を年代順に読んでいる。この長編は2年くらい前に読んだのだがレヴューを忘れていた。
主人公は村上氏と同時代の男性で,40代半ば。いつもの主人公。少年時代に「ちょっと変わった」女性に出会う。その後何人かの女性とつきあい,結婚して「運よく」事業が成功し「結構いい生活」をおくっているが,件の女性が突如現れ,夢か現かわからない朦朧とした時間が過ぎ,やがて一歩手前で「よくできたワイフ」との生活へ「ぎこちなく」戻る。でも,もう以前の日常は存在しない。
といったあらすじだ。莫迦にしているわけではない。こういう氏の小説がとても好きだ。ゆりかごに揺られて快楽を貪るような堕落感がいい。
物語の奥底には幾つかの秘密が隠されているのだと想像するが,今の自分には其処を掘る気分はない。「国境」では,最近多い非現実的な世界は展開されない。あってもおかしくないがめったに起きない現実が描かれていく。
登場人物は,この世代の男性の理想通りで,これもまたいいね(繰り返すが莫迦にしているわけではない)。主人公を自分におきかえて,自分の人生に登場した「島本さん」や「イズミ」を思い出しながら精神の時空旅行を愉しんだ。