十数年前にミュンヘンを訪れた折、現地在住の方が「ドイツへ来たら、これを飲んで帰ってほしい」と、わざわざラオホを飲める唯一の村(名は忘れた)に案内してくださった。アウトバーンを2時間ほどかっ飛ばしたので、300キロ以上離れた場所のはず。そんな思いまでして客人に味わわせたかったラオホとは、これぞまさしく「薫製ビール」、つまみなしでも深く味わえる、空前絶後のうまさだった。その店で「土産に持ち帰りたい」と申し出たら、村の醸造所でビン詰めはしておらず「樽ごと日本まで持って行くか?」と店員が笑う。いい思い出だ。
その懐かしのラオホに、日本で再会できるとは思ってもみなかった。味わいは本場と同じかと問われると、うーん、確かに似ていると答えるにとどまる。日本製を飲んでみてわかったのだが、本場の味をじつはよく覚えていないことが判明したからである。
ただし、このようなドイツの片田舎で細々造られているにすぎない地ビールを、いくら味に惚れ込んだからって、国産で再現してみせようという富士桜高原麦酒の人たちの気概は、並外れて大したものだと思う。そのビールバカぶりに、素直に頭がさがる。ありがとう、うまかったよ。