このオイルは実際に、皮に浸透します。他社の類似製品に、有機成分が揮発する状態を「大変よく皮に染み込んでいる」と錯覚させるものがありますが、このオイルは表面にたまることなく、穏やかに、自然科学的意味で皮革に浸透します。使用直後から皮革が柔軟になり、黒靴であれば本来の黒みがどっしりと蘇ります。私の知るかぎり、このレベルに達する市販製品はSaphir Noirスペシャルナッパ・デリケートクリームをおいて他にありません。
新しい靴にこのオイルを施せば、履きジワの入り方がまったく違います。靴にとってバンプ部のシワは避けて通れない宿命ですが、ライトとヘビーを問わないカーフにこのオイルを施せば極めて上品なシワ、というよりは上品な「撓み」に収まります。
同社レーダーフレーゲとの相性が申し分なく、またコロニル・ディアマンテやSaphir1925との相性も申し分ありません。
レーダーフレーゲで仕上げた場合、湿度感のあるゆったりとした風合いを皮革の奥に感じさせる硬質なツヤ。ディアマンテで仕上げた場合は表面で光りつつベタ塗りを感じさせない硬質なツヤ。Saphir1925シリーズで仕上げた場合は、奥深い色香を感じさせる華やかなツヤになります。共通するのは、このオイルで下ごしらえを施すと、上質な皮革の素材感が際立つという点です。
以前暮らしていた土地で「光りかたがまったく違う」「あそこで頼めば長持ちする」と有名な方に靴のメンテナンスをお願いしていました。当時はその方がメンテに使われている製品の銘柄を尋ねても「秘密だよ」と笑ってかわされていました。転勤で遠く離れてからも、その方のメンテの仕上がりが忘れられず、宅配便で靴を送りメンテをお願いしていました。数回のメンテをお願いしたのちに、
「うちはタピールとサフィールだよ。タピールは今ならネットでも買える」
と教えていただき、こちらで購入させていただきました。