常に年長者の一歩先を行く、非常識なほど利発な年少者。伊坂作品に見られる1つのパターンですね。でも、この作品はあまりにも切ない。笑いはありません。兄も、弟も、母も、父も、とても優しく思いやりあふれる家族なのに、どうしてこんなに切ない目に遭わねばならないのでしょう。
結局彼は生まれてこなければ良かったということなんでしょうか。生まれない方が良かった命ってあるんでしょうか。それでも、生まれてしまったのなら、どう生きれば良いのでしょうか。きっと答えやヒントが得られるに違いないと、読みふけりました。でも、救いも答えもない作品です。読者自身が見つけなければならないのでしょうか。読後のすがすがしさもありません。登場人物とともに、きっと作者も苦悩しながら「命」という大きな課題を真正面に見据えて書き上げられたのであろうと、推察いたします。
彼らを悲しみに追いやった状況は、現代社会にも作品を彷彿させる事件がいくつかあります。内なる怒りを思い起こさせる感慨深い作品でした。