巻頭、地球から600km離れた宇宙探索船から船外に出て作業している3人の宇宙飛行士たちが宇宙空間に漂う様を延々と長回しで捉え続ける浮遊感覚に、こんな映像体験は生まれて初めて、この調子が全編続いたら凄いだろうなと興奮しつつ観ていたら、本当にそのスタイルが貫かれていて感心した。
「ゼロ・グラビティ」は、今まで観たことがない魅惑の映像が次々に登場する。
前述の13分間もの長回しを始め、漆黒の闇に回転しながら飛ばされていくサンドラ・ブロックの姿を凝視していたカメラアイが、いつしかブロックの宇宙ヘルメットの内側に侵入し彼女の視点として宇宙を俯瞰するショットや、彼女が宇宙船内の無重力状態のユニット間をまるで人魚のごとく行き来するショットなど、めまいがするような垂涎ものの芸術的な3Dの世界が堪能できる。
アルフォンソ・キュアロン作品は「トゥモロー・ワールド」以外は観ていないが、こんな凄い映像マジックの担い手だとは思わなかった。
ストーリーは単純明快、探索船の内外で作業を続ける宇宙飛行士たちに突如襲う破断された人工衛星の金属片の嵐。
宇宙船はペーパークラフトの如く粉々に粉砕され、一瞬のうちに宇宙の藻屑となっていく飛行士たち。
唯一生き残ったのはベテラン飛行士のジョージ・クルーニーと初フライトの物理学者のブロック。
以下物語は漆黒の宇宙の彼方で生と死を賭けたふたりの壮絶な人間ドラマが繰り広げられる。
音のない沈黙、極限の孤独の恐怖、絶望的な精神状況の中で、2人は地球に帰還することができるのか。
自己犠牲と何度も砕け落ちそうになりながらも不屈の魂で乗り越える、いかにもアメリカ人たちのツボにはまる展開にサスペンスを盛り込みエンタテインメントとして成立させているのが憎い。
今年の外国映画ベストテンでも軒並み上位にランクインされているのは、その映像の素晴らしさに起因している処が多いが、それだけではないだろう。
陽気で皮肉屋ながら実は哲学者のようなクルーニー。「ある行為」を行ったあとで、彼がガンジス河の川面が陽光できらきらと輝いているその美しさに感嘆を漏らすのを聞きながら、この大宇宙で人間が生きていることの意味を考えさせられる。
本当は、映画館で、それも出来ればIMAXシアターの3Dで鑑賞することが絶対おススメなのだが,
その映像マジックの細部を隅々まで貪り尽くすにはDVDこそが相応しい。