「前書き」でいきなり、「1割の単語を聞き取れれば十分、半分はカンで意味を想像し、残りは聞き流しましょう!」という大胆な書き出しに興味を感じた。たしかに、現地ではこうした姿勢が要求されることを痛感しているが、それに対応する学習書がないように思う。定型のフレーズをそのまま想定問答のように反復させるものが大半を占め、本当に現地で役立つか疑問である。本書はその弱点を逆手にうまく突いている。それが「カンや想像力」養成だと感じた。1課につき8コマの会話に、場面設定、イラスト、会話内容を暗示する状況説明文が提示され、それをもとに「何が話されているか?」を推理、想像させる構成になっていて、実際の現地演習を本にしたような臨場感が味わえる。一話ごとに「落ち」があり、最初の1コマで結末がわかる課や最後のどんでん返しまで結末が分からないものもあり、楽しく学べ、肩がこらない程度にできている点も良い。本文はタイ文字で書かれているが、この本に限っては、むしろタイ文字が読めない方がヒアリング練習に向いていると思った。各章末にあるカンを磨く手法のミニコラムの連載が最終的に物語のエンディングと合流するところがとても凝っているなあと感じる。各課末には実用的な表現集があり、会話本を2冊買ったような利便性があります。主人公のセリフは抑揚がかなり鮮明なので、ものまねするつもりで練習すると声調の聞き取りにもつながるでしょう。コラムが若干少ないのが残念。この著者のコラムはわりと評判なので、またの機会に面白い話を聞きたい。