物語は天文二十三年(1554)から永禄九年(1566)まで、
主人公山中甚次郎(鹿)が出雲の国・月山の山中で走っていた時に
黒装束の男たちが山伏姿の男を殺すのを見る場面からはじまります。
やがて父満幸は毛利元就との合戦に出かけ帰らぬ人になります。
父は「信義、つらぬけ」という言葉を叔父を通じて残しています。
<乱世である。信じられるものなぞ、何もない。だからこそ、武士は信義をつらぬけ。
信義とは人のみちである。ごまかしのことばにまどわされず、
自分の信じた道をまっすぐにはしりぬけ。
見せしめのために無惨に殺されていった人びと、忠誠という美しい言葉であおって女子まで殺し尽くす、尊敬できない主君に、なぜ命をかけて尽くさねばならないのか?