植物を学んだことがある者ならば、一度や二度は誰かに話したくなるようなウンチクを散りばめながら、ひとつひとつのエピソードを丁寧に書き込んであり、心が温かくなるような、まるで冬の日だまりにいるような安心感を覚える小説である。
ただし、主人公の女性の一人称で語られるためか、もうひとりの主人公である男性の心の動きが全く分からず(恋愛小説だから結末はそうなることが分かっていても)、その結果、読者は置いてきぼりにされる。
また、起承転結の「転」の部分で、文字どおり物語は急展開するが、その手法が陳腐(というよりも、あまりにも呆気ない)。いや、それまでの丁寧な書き込みが何処へ行ったのか、いかにもおざなりな感じがして、書くのが面倒になったのかとか、予定紙面が尽きたのかとか、思わずしなくてもいいようなゲスな勘ぐりをしてしまう。実にもったいない。ネタバレをしない範囲では、うまい喩えが見つからないが、ちょうど某ゲームで主人公が「えいえんのせかい」へ旅だった後のプレーヤーのような気分になってしまうのだ(←というか分かる人がいるのか(笑)。