日々の新聞やテレビのニュースでは、事故や事件に
よる死者の話題が途切れたことが無い。時には、
被害者の人となりが詳しく紹介されることもある。
主人公の青年は、そんな全国の事故や事件の
あった場所を行脚し、亡くなった人の思いを胸に
刻むという「悼み」を行い、やがて「悼む人」と
呼ばれるようになる。
何のためにどうして、主人公はこの「悼み」を行う
のか。この行為の意義は何か、果たして意味の
あることなのだろうかという点が、この物語の
最大のポイントである。
著者も、繰り返し、寄せては引く波のように、
これを訴えている。ただ、自分としては、情緒的
には理解できるのだが、まだまだ納得はできない。
次に彼をめぐる家族の物語。とくに末期ガンで、
在宅で最期を迎えようとする彼の母親の物語は
心に沁みる。
「悼む人」を追いかける嫌われ者の雑誌記者の
物語は、分かりやすい。人間の汚さ、醜さに拠った
記事を売りにしていた雑誌記者は、「悼む人」の
影響を受け、スタイルが変っていく。しかし、
思わぬ結末が待ち受けていた。
もう一人、「悼む人」と行動を共にする夫殺しの女。
殺した夫の首が肩にとりついている。「悼む人」と
この夫との対話は、「悼む人」の行為の動機に迫り
圧巻である。
「死」という重いテーマを、以上のようないくつ
かの側面から描いているので、なかなか快適には
読み進めることができなかった。「永遠の仔」の
ようにミステリ仕立てでもなく、ただただ、時系列に
読ませるだけ。読後の後味もさほどすっきりとは
しない。それでも、心の底にポッと暖かさが残るのが、
救いはである。
表紙は作者が写した舟越桂のスフィンクスの像。
この彫刻から、作者は啓示を受けたそうだ。人間
はどこから来てどこへ行くのかという永遠の謎を
提起しているかのようだ。