池井戸潤氏の作品を集中的に読んでいます。本作は、1998年江戸川乱歩賞受賞のデビュー作「果つる底なき」以来、銀行を舞台とした一連の作品群のひとつと考えられるものです。本作は、大手銀行にバブル期に入行した主人公と仲間が、その後の不良債権、国費救済、合併再編などを経た銀行で、もがいている姿を描いています。まだエリートであったり、すでにエリートから外れていたりという様々な様子を見せながら、歪んだ銀行組織を見せつつ、主人公はいわれなき策略で銀行員としての将来を自ら守ろうと奮闘し、銀行本部の一大勢力と対抗する姿は、池井戸潤氏の銀行モノのセオリーどおりのようにみえます。そうした中で、本作では、前半にしばしば実際の企業不祥事や銀行解体、バブル経済の傷跡を描いたり、銀行組織や銀行業務について、ちょっとビジネス書のような解説風の場面があったりすることです。元銀行員、執筆しながら経済コンサルもこなす、そうした池井戸潤氏もまた、バブル期にまさしく銀行員という人生を切り開いたことに思いが至ります。ちょっと実話なんじゃないの?と思わせる現実感がかなり描き込まれています。本書カバーには、「痛快企業小説」と称されていますが、なんだか銀行告発の書のような気がします。強い意志で銀行員としての自らの将来を守った主人公も、実は、脅迫し、策略し、対抗する銀行内の勢力と同じエリート指向であり、どんなに正義に見えても所詮は個人の欲の姿であり、そうした社会を今も維持しているであろう銀行という企業社会に暗澹とした気持ちにさせられます。決して痛快とは言えない思いをこの時期の池井戸氏の作品ではしばしば感じます。