著者が国際的科学雑誌《フジックス・ワールド》誌上で行った「もっとも美しい科学実験」についての読者アンケート調査から生まれた一冊。「もっとも重要な科学実験」ではなく「もっとも美しい科学実験」であるところにとても興味が惹かれました。
「美しい科学実験」とは何か?
著者は本書の中で美しい実験がもつべき要素として以下の3つをあげています。
1)【深い】事柄を明らかにし、我々の知識を塗り替えるようなかたちでそれを成し遂げること
2)実験を構成する個々の要素が【効率的】に組み合わされていること
3)一般化や推論をしなくても、結果がはっきりと示される【決定的】なものであること
これらの視点にもとづいて、本書で選定された10の科学実験一つ一つについて、その時代背景や実験そのものについてとても丁寧に掘り下げられた記述がなされています。
これらの一つ一つの実験についての記述だけでもとても興味深いのですが、本書の一番の特徴は科学的な視点と哲学的な視点の両方の視点が高い次元で融合している点ではないでしょうか。
本書の終章で著者は、プラトンの美に関する主張を引き合いに出しながら、以下のように述べています。少し長いですが、本書を表現するにふさわしいと思いますので、ここに引用させて頂きます。
「古代ギリシャの人々は、美しいものと芸術作品とあいだに特別な結びつきは認めず、美しいものとは、何であれ価値のあるもの、見るに値するもの、それ自体として存在する意味のあるもののことだった。
つまり、美を装飾や華麗さとに関係においてではなく、法則・制度・魂・行為といった模範的なものとの関係において捉えた。
その結果として、「真」と「美」と「善」とに密接な結びつきを認め、それらは互いに絡み合い、共通の根元において分かちがたく結びついていると考えた」
本書は決して読みやすい書とは言えません。文章はとても読みやすくエキサイティングなのですが、読むものに多少の事前知識を要求する書であるからです。
科学・哲学両面での基本的な知識が不足している私には、1回読んだだけでは、まだまだ消化できていないと感じています。
しかし、基礎的な知識を調べたり、学習しながらでも、今後2回・3回と読み返し自分なりに消化したい・・・そう感じさせてくれるテーマと内容を持った貴重な良書であると思います。