本書は、処女作『神は銃弾』でイギリス推理作家協会最優秀新人賞、日本冒険小説協会大賞(2001年第20回外国部門)を獲得したボストン・テランの第二作目だ。
前作同様に、この『死者を侮るなかれ』にも魂消て、ぶっとんだ。だいたい傑作と称賛される冒険小説は、主人公が困難な任務に挑戦し、それを阻止しようとするライバルを突破し目標を達成するものと相場は決まっている。例えば、要人の暗殺とか、何百万人が犠牲となりかねないテロ計画の阻止といったことだ。ところが、本書には、そんなものはない。描かれているのはチンケな悪党同士の脅迫、駆け引き、騙しあい、そして撃ち合いだ。しかし、これが途轍もなく面白い。
・殺人現場から西へほんのビール一杯分の距離。
・ディーはスペイン語で話しつづける。アリシアにはそれが音のしない平手打ちのように感じられる。
・きれいにマニュキアされたような声をしている。
・「品位なんてものは鼻からでも吸わないかぎり持てないね、あたしには」
こんなハッとしたり、うーむと唸ったりするような表現が随所に見られる。
私は平素女性を尊敬し、畏怖するものだが、本書を読んで、男にとって欲深い愛人は極めて怖ろしいと改めて感じた。道を踏み外すことを強いる愛人なんて、絶対要らないぞ。
最後に名言をひとつ紹介する。
「あんたはエゴを呑み込むことを学ぶべきだ。それができないというのであれば、少しはエゴに磨きをかけるべきだ」