レビューを読んで期待して購入しました。「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。」という始まりにもワクワクしました。どんな料理が出てくるのだろう。食材の温度や匂い、鍋から立ちのぼる湯気に部屋の湿度、リズミカルに包丁で刻まれる野菜の音、熱したフライパンで溶けていくバターだったり、もう待ち遠しくてたまらない完成とか。きっと食べたくなってしまう料理がたくさん出てくるのだろうと期待し過ぎていました。そういった描写が全くなかったこと。たまに主人公がキッチンに立っても、芋の皮むきを始めた次の瞬間、「できあがった大量の夕飯」となってしまっているのが、なんだかとても残念でした。身近な人の死を経験した二人の人間の生き方が物語のテーマでしたが、「この世でいちばん好きな場所」キッチン、というからには、そこから生み出される料理と、それに向き合う主人公の様子など、たった一ヶ所でもいいからそういった描写が欲しかったです。残念ながら私には合わなかっみたいです。新潮文庫の本にはスピンがついているのが嬉しいです。