召された長男が使っていたブルガリ。本棚にある瓶の残りはあとわずかだった。
これを涸らすことは、私の心根が許さなかった。
まぎれもない彼の匂い。友達がいつも甘いいい匂いがしていたと言ったのはこれのこと。
彼はこの香りをまとって何をしていたんだろう。
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買ったのは5月。その時試しに自分に向けて、ひと吹きした。
奥どんは言った。「匂いがキツイ!」。
私は慌てた。慌てて、ファブリーズを4~5回ふった。なんのことやら汗が出た。
彼の香りは一瞬で消え去った。
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私は香水のようなものを使ったことがないので使い方が分らない。
なんでも遠目でふわっと空気を着るようにかけるらしい。
そんなことは、もう金輪際知らなくていい!。
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ああ、あれからもう11年が過ぎた。毎年、彼の誕生日かこの日に訪れる親友がいる。
大学時代にアメリカ行きの片道切符で、アルバイトをしながら見聞を広げてきた。
死にそうな目にもあったらしい。
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奥どんは、友のことが好きだ。たぶん私より。それが証拠に友とはよく話す。
私との1年分くらいの会話を友とは1、2時間でしてしまう。目を輝かせて。
御年39歳。息子の影を追っているのかも知れない。
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友の話は確かに面白くて引き込まれる。いろんな苦労を積み重ね、結婚し、家も建てたようだ。
8時過ぎから2時間半はあっという間だった。.
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それから、もう一人、これは従妹。彼が最後に一口食べた「梅が枝餅」を毎年持ってきてくれる。
餅も温かいが心の温かさが沁みる。
継続することは何よりも素晴らしいが何よりも難しいことだから。
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彼が3次元から煙となって異次元へと旅立ったのは11/5のこと、
実に11/2から3日間、毎年眠れない苦行に変わりはない。